イベント・レポート
開催日:2026.06.05
メディア・テクノロジーから生まれる音の可能性を探るイベント「freq(フレック)」では、「芸術×科学による分野横断型高度クリエイティブ人材育成プログラム」DANC クリエイティブ融合コアⅠの一環として、京都を拠点に活動するパフォーマンス・アートコレクティブ「ANTIBODIES Collective」のカジワラトシオ、東野祥子をゲストにワークショップとShowing、トークセッションからなるイベントを開催した。以下では、2015年に活動を開始した「ANTIBODIES Collective(アンチボディーズ・コレクティブ)」の活動を辿りつつ、イベント開催の様子を振り返る。
トークセッション
登壇:カジワラトシオ、東野祥子(ともにANTIBODIES Collective)、ohagi、城一裕
関連イベント
アフターパーティー「Close To Me!」
会場:Bar Sirocco (IBIZARTE B1)
ANTIBODIES Collective
ANTIBODIES Collective(以下、ANTIBO)は、音楽家・カジワラトシオと舞踊家・東野祥子(ひがしの・ようこ)を基軸に、2015年に始動したパフォーマンスアーティストコレクティブである。ジャンルの境界を打破し、さまざまな分野のスペシャリストの有機的なコラボレーションの可能性を探りながら、舞台と日常を往来するような感覚を呼ぶ【自由回遊型】という独自の演出方法で社会性の強い舞台作品を発表し続けている。
音楽家のカジワラトシオは、90年代よりニューヨークを拠点にレコードプレイヤーやテープ・マシンを多用した独自のパフォーマンス活動を開始する。90年代中期よりクリスチャン・マークレーやグレゴー・アッシュ(DJ Olive)等と世界各地での演奏活動をおこなう傍ら、ニューヨークのアバンギャルドシーンを牽引したライブハウスTONICにて、即興パフォーマンスイベント「phenomena」(1998-2003年)を企画/運営。同名の実験音楽レーベルを運営し、ジョン・アップルトンやリュック・フェラーリなどの未発表音源を紹介するなどアーティストやダンサー等とともに音楽と表現に関わる探求を続けてきた。2008年に帰国した後は、舞踊家の東野祥子とのコラボレーションを主軸に、クリティカルな時代を生きる人間の姿を描く舞台演出作品を多数発表している。
舞踏家の東野祥子は、「煙巻ヨーコ」名義で即興アーティストとのセッションをクラブやライブハウス、ギャラリー、野外等で展開。2000年には豊田奈千甫、池端美紀とともに「Dance Company Baby-Q(ベイビー・キュー)」を結成。2025年に惜しまれつつも閉鎖した、大阪市千日前のレジャービル「味園」の一角にダンススタジオ兼カフェバーを設け、カンパニーの活動拠点としていた。カジワラとは2000年代初頭のニューヨークで出会った。
自由回遊型公演 ── 劇場から公共へ
東日本大震災という大きな転機を経た2012年、ANTIBODIES Collectiveは結成された。「食や医療、農業、文化創造など、人が生きていくために必要な営みを見つめ直すなかで、さまざまな鍛錬や実践の重要性を実感した。それがコレクティブを立ち上げる後押しになった」とカジワラは振り返る。
以降、実験音楽、ダンス、映像、美術、テクニカル、食など、多様な分野のアーティストや専門家が集い、各の知識や技術、身体感覚を持ち寄りながら活動を展開。分野横断的な協働を通じて、社会との関わりを強く意識した舞台作品やインスタレーションを発表し続けている。
2015年には、別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」[註] では、元ストリップ劇場やシャッター商店街[註] を舞台としたパフォーマンス・プロジェクトで、アトラクション型のお化け屋敷「永久別府劇場・恐怖の館」に参加し[註] 話題を呼んだ。(http://mixedbathingworld.com/project)
東京・阿佐ヶ谷の市街地を舞台に上演された「A界隈」(2016年)は、劇場と公共空間を往還する大規模な市街劇で、出演者と観客の境界のみならず、一般通行人や警察など非参加者との関係性をも作品に取り込みながら展開。「あらゆる次元における境界を垣間見る公演だった」という。(WEB:https://www.antibo.org/works/akaiwai )
「エントロピーの楽園」(2018年)では、犬島(岡山県)全域を舞台とするサイトスペシフィックな作品を発表した。観客は地図を片手に島を巡りながら、同時多発的に展開されるパフォーマンスや、廃屋・廃材を活用した作品、サウンドインスタレーションを体験する。江戸時代には石切業、その後は銅精錬によって栄えた犬島は、産業の衰退とともに過疎化と高齢化が進行した地域である。
本作はそうした土地の歴史や風景を作品に取り込みながら、人々が島を歩き、出会い、滞在する時間そのものを創出した。カジワラ自身、廃墟となった採石場の民家に長期間滞在し、作品のテーマを探った。
(WEB:https://www.antibo.org/works/entropical-paradis-inujima)
こうした実践を重ねて、ANTIBOは【自由回遊型】と呼ぶ独自の鑑賞スタイルを確立していく。
観客は客席から作品を眺めるのではなく、自ら移動し、場所や他者との関係性のなかで作品を経験する主体となる。地域の風景や歴史、住民の日常の営みが舞台装置となり、地域住民や来訪者、アーティストが緩やかに交差する場をつくる。作品は単なる上演に留まらず、人と人、人と土地を結びつけるコミュニケーションの媒介として機能し、地域に新たな対話や関係性を生み出してきた。

数カ所の埋もれていた場所を開墾し、草刈り、整備し、上演出来る環境に仕上げた。そこでしかなし得ないパフォーマンスを実施した (写真:https://www.antibo.org/about)
関係性や表現媒介としての活動体
制作や上演の過程で多様な主体が関わるANTIBOの作品は、制作者と鑑賞者という枠組みを超えて、地域住民や偶然その場に居合わせた人々をも巻き込みながら、コミュニケーションを生み出してきた。コレクティブには、ダンサーやパフォーマーをはじめ、ドラマトゥルク、舞台美術家、音楽家、プログラマーなど、多様な専門性をもつメンバーが有機的に参加している[註]。公演によっては長期間にわたる滞在制作を行い、その土地での生活や創作を支えるフードケータリング担当者なども活動に加わるなど、プロジェクトごとに柔軟な協働体制を築いている。トークセッションに登壇した福岡在住のオーガナイザー・Ohagiも、そのような関わりのなかからANTIBOと接点を持った一人である。これまでパーティーの企画や音響分野を通じて活動を共にしてきた。
「不思議な音の実験室」
ANTIBOにとって、表現とは作品を上演することだけにとどまらない。異なる背景や専門性をもつ人々が出会い、協働するなかで生まれる関係性そのものが活動の重要な成果となっている。これらの実践は舞台芸術の領域を超え、教育や福祉の現場へと展開されてきた。そんな取り組みの一つが、カジワラによるオリジナルのワークショップ「不思議な音の実験室」である。
不思議な音の実験室は、スコア作成 → 実践 → 録音 → リスニングの4部で構成されており、今回のイベントは、会場となった九州大学大橋キャンパス音響特殊棟の録音スタジオ、残響室、無響室と、屋外中庭の4つのスペースを活用して実施された。
イベントに参加した30名の参加者は4つのグループに分かれ、まずは音のスコアリングをおこなう。演奏の指示や発想を、絵や記号によって記述するグラフィックスコアである。参加者は、空間のなかで音がどのように移動し、配置されるのかを感覚的かつ即興的に記譜していく。今回のワークショップでは、異なる4つの音響環境(録音スタジオ、残響室、無響室、屋外)のどこで音を生成するのかという条件も、スコアを構成する重要な要素となる。
次に、各グループは作成したスコアに基づき演奏を行う。参加者はカジワラが用意したアフリカやアジアの民族楽器をはじめ、電子機器、ラッパやドラ、風船やピンポン球など多様な道具を用いて音を立ち上げていく。演奏には、一度だけポーズ(静止)を挟むというルールが設けられているものの、それ以外は即興に委ねられる。参加者は楽器だけでなく、声や身体、さらには頭上を通過する飛行機の音など周囲の環境音も取り込みながら、それぞれのスコアを音響として実践した。その様子はリアルタイムで録音され、後半のリスニングへと引き継がれる。
後半のリスニングでは、各グループが収録した音源をマルチチャンネル音響システムで再生し、音が異なる空間条件のもとでいかに知覚されるのかを検証した。また、ワークショップ終了後には、完成した音源を用いて、「ANTIBODIES Collective」の振付家・ダンサーである東野祥子によるショーイングが行われた。本ワークショップは、参加者が空間や身体をフルに活用しながら技術や知識に縛られない、自由な音楽を奏でる可能性を体感することを主眼においている。これまで子どもから大人まで幅広い層に向けてシリーズ開催をされてきた。


カジワラによるデモンストレーションとワークショップ中の様子 写真提供:ohagi
今回は、録音スタジオ、残響室、無響室といった異なる音響特性をもつ空間を横断的に使用したことで、音を生み出す行為と、それを聴く行為との往還がより強く意識されたものとなった。参加者は、空間条件の違いが音の知覚や意味形成に与える影響を観察しながら、音・身体・環境の関係性について実践的な考察を深めていった。参加者は、空間条件の差異が音の知覚や意味形成に与える影響を観察しながら、音・身体・環境の関係性について実践的な考察を深めていった。同時に、キャンパス内の複数の空間を移動しながら音を記録し、演奏し、聴取する一連のプロセスは、ANTIBODIES Collectiveが掲げる【自由回遊型】の実践を体現するものでもあった。
音響特殊棟の諸室から屋外空間に至るまで、ワークショップの会場全体がひとつの表現のフィールドとして機能し、参加者は音を手がかりに空間を横断しながら、その多様な環境特性を身体的かつ感覚的に経験することとなった。
質疑応答
Q.東野祥子への質問
会場:
踊っているとき、何を考えていますか?リズムに乗る/外す、物語っぽくなるなど展開が多いですが、意図やコンセプトはありますか?
東野:
すごく見てくれている、ありがとうございます。
コンセプトっていうより、ずっと一緒にやってる音の“音色”みたいなものがあって、その中に自分が開いてる感じなんです。リズムに乗ってるときもあれば、あえて外してるときもあって、その中でいろんな物語が同時に起きてるんです。場所が変わったり、年代が変わったり、性別も変わったりして、ずっと旅してるみたいな感じで。踊ってるというより、音に反応しながらいろんなものになっていくというか、私というより、何かが通っていく感じです。
城:
この空間(音響特殊棟録音スタジオ)で身体表現をやるとき、やりやすさはありますか?
東野:
すごく良いと思います。天井が高くて、視線が上に抜ける感じがあるのが大きくて。身体を動かすときに、その“抜け”があるのはすごく重要です。床もすごく踊りやすいです。音響のための設計だと思うんですけど、身体表現をするのにも合ってるなって思いました。
Q.カジワラトシオへの質問
城:
「音楽の境界の曖昧さ」についてお話しされていましたが、こちらをもう少し聞かせてください。
カジワラ:
「音楽」っていう言葉は便利なんですけど、やっぱり固定観念も強いですね。本来はもっと広いはずなのに、「音楽」って言った瞬間に枠ができてしまう感じがあるんです。ただ一方で、それを簡単に「音楽じゃない」とも言えなくて。そこはずっと曖昧なままだと思ってます。
城:
その「境界」についてはどう考えていますか?
カジワラ:
僕は音楽にすごく救われてきた経験があるので、音楽そのものを否定したいわけではないんです。
ただ芸能として、やれることをやるかどうか、みたいなところはあると思っていて。評価とかじゃなくて、やれることをやるかどうか、だと思ってます。
Q.子どもとのワークショップではなにが起きているのだろうか?
カジワラ:
子どもたちはほんとに集中してくれるんです。初めて触る楽器でもずっと触ってたり、太鼓を自分のパートみたいにやってたりもします。その中で、自分の役割みたいなものを勝手に見つけていく感じがあって。
城:
大人の“正解”とは違う動き方ですね。
東野:
そうですね、「できないことを見つけたら勝ち」みたいなゲーム感覚もあって。風船ひとつでも、こんな遊び方あったんだ、みたいなことがどんどん出てくるんです。
カジワラ:
最後のシェアリングの時間がすごく大事で。子どもたちが面白がってつくったものを、そのまま受け止める時間なんですよね。
東野:
子どもたちもすごく集中してくれてて、楽器をずっと触ってたり、自分のパートみたいにやってたりするんです。自分の出した音にすぐ反応が返ってくるので、それが安心にもつながってるんじゃないかなって思います。
註釈
[註] 楠銀天街(くすのきぎんてんがい)
[註] 別府で3年に1回開催される国際芸術祭
[註] ANTIBODIES Collectiveのほか、福井貴彦(舞踊家、芸術家、整体師)と、福井ハルカ(美術家)による「MuDA(ムゥダ)」、福岡恐いもの研究会といったアートグルーブや団体が参加した。
[註] 主なメンバーとして、映像作家の斉藤洋平、舞台美術を手がけるOLEO(オレオ)、プログラマーの古館健、ドラマトゥルクの石橋源士が在籍/活動、過去に在籍していた。
カジワラトシオ|Toshio Kajiwara
90年代初頭にターンテーブルやテープを駆使した独自の即興パフォーマンスを始める。後にクリスチャン・マークレイと実験音楽トリオを結成、00年代初頭まで数々の海外遠征やパフォーマンス・イベントを共にする。他にもペーター・コワルド、シェリー・ハーシュ、マリーナ・ローゼンフェルド、ティム・バーンズ、オッキュン・リー、DJオリーヴなどの演奏家たちと活動を共にした。13年間に渡りNYの老舗中古レコード店で勤務し、埋没した歴史的音源の発掘や再評価の運動にも貢献。自主企画レーベル「PHONOMENA」ではジョン・アップルトンの未発表音源などをリリース。現在は京都に拠点を移し、パフォーマンス・アーチスト、芸術家、エンジニアの集合体「ANTIBODIES Collective」を主宰。演出や音響に関わる独自の方法論の探求を続けながら、日本各地でコラボレーションによる総合的な創作と、その社会的な役割と可能性を提示することに従事する。16年には中古アナログ専門店「ヒト族レコード」を開店し、世界中から訪れる音楽マニア達が情報や冗談を交わし合う場を提供。即興演奏家やDJとしても活動している。
東野祥子|Yoko Higashino
ANTIBODIES Collective振付家・ダンサー。90年代後半より舞台作品を国内外60都市以上にて発表。’00 ~’14年「Dance Company BABY-Q」を主宰。トヨタコレオグラフィーアワード、横浜ダンスコレクションソロ・デュオ〈Competition〉など受賞。‘15年より京都を拠点に、多ジャンルなアーティストが在籍する「ANTIBODIES Collective」をカジワラトシオと共に結成。国内外での公演活動は劇場にとどまらず、野外や島全域、廃墟や地下水路などでも、大掛かりな舞台作品やパフォーマンス、インスタレーションを実践する。またソロダンサーとしても即興コラボレーションを多数展開。ダンサー育成のWSや学校へのアウトリーチなど、地域の活性化に根ざした活動にも定評がある。
ANTIBODIES Collective|アンティボディズ コレクティブ
芸術と生活、記憶と歴史、そして個人と社会の新しい関係性を探求する様々な分野のスペシャリストたちの集合体として、音楽家・演出家のカジワラトシオと舞踊家・振付家の東野祥子によって、東日本大震災という転機を経た2012年に創案され、2015年結成。それ以降、国内外における「自由回遊型」と名付けた独自の演出方法による舞台作品の上演やコミュニティー・ワークショップやアウトリーチなどの活動を続けている。様々な鍛錬や境界がダイナミックに関わり合うコラボレーションの形態を発展させていくための環境を創り出し、そこに蓄積された体験を、舞台芸術やパフォーマンス・アートに関わる様々な人材とその叡智を、市民社会や教育、福祉の現場へと接続していくことを掲げている。